市営住宅で良かれと思って行ったリフォームが、後に大きなトラブルや金銭的負担を招いたという失敗事例は後を絶ちません。ある入居者の事例では、入居してすぐに部屋の暗い雰囲気を変えようと、リビングの壁全面に高級な壁紙を業者に頼んで貼ってしまいました。さらに、使い勝手の悪かったキッチンカウンターに自分でおしゃれなタイルをセメントで固定し、備え付けの古い収納棚を取り外して処分してしまったのです。本人は「部屋を綺麗にしたのだから、次に入る人も喜ぶし、市にとっても価値が上がるはずだ」と考えていました。しかし、10年後に退去する際、立ち会った管理事務所の職員から突きつけられたのは、想像を絶する原状回復の命令でした。まず、壁紙は下地のボードを傷めている可能性があるとしてすべて剥がすよう命じられ、その後の塗装費用も請求されました。さらに深刻だったのはタイルの造作です。コンクリートの壁にセメントで固定してしまったため、専門業者による大掛かりな解体が必要となり、その費用だけで数十万円がかかってしまいました。そして最も致命的だったのは、処分してしまった収納棚です。同じ製品はすでに生産終了しており、特注で似たような棚を製作して設置し直さなければならず、最終的な原状回復費用は100万円を超えてしまいました。この事例が教える教訓は、市営住宅における「改善」は、管理者の視点では「不正な改変」と見なされることがほとんどであるという点です。どれほど高価な素材を使い、どれほど美しく仕上げたとしても、それが元の仕様と異なる以上、すべては「撤去すべきゴミ」と同等に扱われてしまいます。また、別の失敗例では、自分で床にクッションフロアを接着剤で貼った結果、退去時にそれを剥がそうとしたら元の床材まで一緒に剥がれてしまい、多額の損害賠償を請求されたケースもあります。「少しだけなら大丈夫だろう」「綺麗にしたのだから文句は言われないだろう」という甘い考えは、市営住宅という厳しいルールの世界では通用しません。リフォームを検討する際は、常に「出口」である退去時のことを考え、元の状態に100パーセント戻せる自信がない限り、安易に手を出すべきではないのです。