キッチンの床リフォームにおいて、設備を動かさずに施工する選択をする人は、全リフォーム案件の約半数を占めると言われています。この手法を選ぶ最大の動機は、言うまでもなく費用の節約です。システムキッチンの脱着には、水道、ガス、排水の切り離しと再接続という専門工程が必要になり、それぞれの職人の手配費用が発生します。これを回避することで、6畳程度のキッチンの床張り替えであれば、純粋な材料費と大工の人件費だけで10万円から15万円程度に収めることが可能です。また、キッチンの仕様によっては、外すこと自体が物理的に困難な場合もあります。例えば、壁や床にガッチリと固定された造作キッチンや、タイルで周囲を固められた古いタイプの台所などは、無理に外そうとすると設備自体を破損させる恐れがあるため、周囲のみの張り替えが唯一の現実的な選択肢となります。しかし、この簡易的な手法には明確なデメリットも存在します。最も顕著なのは、仕上がりの精度です。フローリングやクッションフロアをキッチンの形に合わせて精密にカットしなければなりませんが、どれほど腕の良い大工でも、数ミリの隙間が生じることは避けられません。この隙間を隠すためにシリコンのコーキング材を充填しますが、経年劣化によってこのシリコンが変色したり、剥がれたりすることで、数年後には見栄えが悪くなる傾向があります。また、既存の床の上に新しい床を重ねて貼るカバー工法を選択した場合、キッチンの前だけが数ミリ高くなるため、キッチンの最下部にある引き出しが床に擦れて開かなくなってしまうという致命的なミスが起こることもあります。さらに、将来的にキッチンを最新のものに交換しようとした際、新しいキッチンのサイズが古いものより小さかったり形が違ったりすると、床が張られていない古い部分が露出してしまい、結局その時に床を全面的にやり直さなければならなくなるという二度手間が発生します。つまり、外さずに施工する方法は「今すぐ安く綺麗にしたい」という短期的なニーズには最適ですが、「家を長持ちさせ、将来のメンテナンスコストを最小限にしたい」という長期的な視点では、むしろ不利益になる可能性があるのです。リフォームの計画を立てる際は、現在の家をあと何年維持するのか、今のキッチンにどれほどの愛着があるのかを冷静に分析し、メリットとデメリットを天秤にかけることが不可欠です。
キッチンを外さずに床を張り替えるメリットとデメリットの比較