長年内装仕上げに携わってきたベテランの職人は、クロスのひび割れについて、建物の動きという不可抗力のほかに「下地処理の質」が大きく関わっていると指摘します。クロスの仕上がりを左右する最大の要因は、実は表面に貼るシートそのものではなく、その下にある石膏ボードのジョイント部分の処理にあります。石膏ボードは1枚の大きな面として貼られますが、どうしてもボードとボードの間には継ぎ目ができます。この継ぎ目には「パテ」を塗って平滑に整えるのですが、このパテ処理が不十分だったり、使う材料を間違えたりすると、クロスのひび割れリスクが格段に高まります。プロの現場では、継ぎ目に補強用のファイバーテープを貼り、その上から収縮の少ない高品質なパテを2度、3度と重ねて塗ることで、下地の動きを最小限に抑える努力をしています。しかし、工期を急がされたり、コスト削減のためにこうした工程を簡略化したりすると、完成直後は綺麗に見えても、半年から1年も経てばボードの微細な動きに追従できず、継ぎ目に沿って真っ直ぐなひびが入ることになります。また、クロスの選択自体も重要です。最近では非常に薄くてデザイン性の高いクロスが増えていますが、こうした製品は下地の動きがダイレクトに表面に現れやすいため、ひび割れが目立ちやすいという側面があります。反対に、厚みがあり伸縮性に優れた「リフォーム用クロス」や、織物のような質感の製品は、下地が多少動いてもクロスが伸び縮みして表面まで割れが届かないため、メンテナンス性が高いと言えます。職人が特に神経を使うのは、入隅と呼ばれる壁のコーナー部分です。ここは建物が揺れた際に最も負荷がかかる場所であり、クロスをただ曲げて貼るだけではすぐに亀裂が入ってしまいます。そこで、あえて角でクロスを切り離し、コーキング材で隙間を埋めることで遊びを持たせるなどの高度なテクニックを駆使しています。施工の品質を見極める一つのポイントは、クロスの継ぎ目がどこにあるか、そしてその継ぎ目が目立たないだけでなく、将来的に割れにくい配慮がなされているかという点にあります。職人は「家が動くのは当たり前」という前提に立ち、その動きをいかにクロスで吸収させるかに一生懸命知恵を絞っています。一見するとすべて同じように見えるクロス貼りの作業ですが、その裏側にある下地へのこだわりこそが、数年後の美しさを決定づけるプロの矜持と言えるでしょう。